打撃の基本の考え方
人間の身体の七割は水分である
中国拳法には北と南の区別があり、
それぞれ打撃(攻撃)の考え方・仕方が異っている。
一般に素手で相手を打つことを考えると、拳を作り、
しかもハンマーのごとく固くして、
長い距離をスピードをつけて打ち出すということになると思う。
それが力学的にみて物体を破壊するのに
一番威力があるから当然なのである。
しかし、人間を相手にして打つという場合、
中国の昔の人はそうはしなかった。
歴史の古い中国北派拳法の打撃方法は、
南派拳法や日本の空手のようには、
拳を固くする鍛え方もしないし、
長い距離も必要としないものなのである。
というのは、根本的な人間に対する考え方がまったく異っているからである。
現代の医学でも、すでに証明されているが、
人間の身体の六~七割が水分であるということは、
紀元前の昔から中国に伝わる医学、いわゆる漢方医学においていわれていた。
「人間は気・血・水から成る」といのがその具体的表現である。
こういったものの考え方は、いわゆる中国人社会においては、
決して生活とかけ離れた存在ではない。
したがっておのずから人間を殺す場合にも、
生かす場合にもこの「気・血・水」の考え方はついてまわってくる。
であるから、素手で相手を打ち殺す場合も、
対象が人間である限り、手をハンマーのように
固めて長い距離をスピードをつけて打つ必要がなくなるのである。
ちょうど、水をふくませたスポンジを考えてもらえば良い。
スポンジから水を出すのに、別にハンマーでおもいきりたたかなくとも、
拳で押してやれば良いし、もっと水をスポンジから出したければ、
掌で少しづつ押して行けば良いのである。
ただ、人間の体はスポンジに水をふくませたものと、
まったく同じでないので、打ち方にも
ちょっとした技術というかコツがいるのである。
つまり、水を外へ出すのではなく、ある種の衝撃を外部から加えて、
スポンジと水のバランスをくずしくやるか、
水に波紋をあたえて不活性化してやればよいのである。
すなわち、筋肉などの局部を打撃していためつけるのではなく、
衝撃によって波紋を与えて内臓の働きを止めてやるのである。
内臓の働きの停止は死にも通じるのである。
そして、その為には拳よりも掌の方が有効であるということをつけ加えておきたい。
しかし理論があって実践が行われたのではなく
何かの経験によって組み立てられるものである。
それではどういった経験によって中国拳法の打撃の考え方
が組み立てられていかれたのであろうか。
・・・・・・ 続く ・・・・・・
蘇 東成 氏 著作 中国拳法の解説より